院長日記

第4話 医者は傷をどこまで直せるか


事故等による傷跡や、手術によってできた傷跡を消せませんか、と言う相談を日常的に受けるのですが、結論から言いますと直せるものは治る(消せる)し、よくならないものはならないと言うのが実情です。
当然その傷の状態(深さ、形状、場所、色調など)によって手術適応が決まるのですが、手術によって明らかに良くなるであろうものの場合、さて、それではどこまで消えるの、と言う事になります。
私はいつも決まって次のようにお答えしています。
肉眼で誰が見てもその傷後が目立たない、と言うレベルを10とすると、医者が100%の仕事をしてさしあげたとしても、たかだか10のうちの6割程度の事で、残りは、御本人の傷の治り方に拠りますと。
これでは少し無責任のようですが、本当にそう思っています。そのため、御本人の傷の治り方を推定する(血液データなんかよりも、皮膚の状態をしっかり観察する事のほうがはるかに役立つのですが)能力が実は一番重要だし、治療を希望される方がどの程度の結果で満足していただけるのかを理解する事(これはもうかなりの経験と親切心が必要になるのでしょうが)が、医者の腕の良し悪しであるとさえ思えます。
仕事がら、手術によってできる傷跡については非常に慎重にならざるを得ないので、逆に傷跡が目立つような手術の場合は、少し憂鬱になります。
その代表とも言えるものに、大きすぎるバストや、垂れたバストを修整するマンマリダクション、マストペクシーと言う手術があります。皆と温泉に入るのが恥ずかしくて、何とかなりませんか、と言う理由で来院される方が多く、タルミはよくなったが今度は傷跡が気になって、と言う事にもなりかねず、手術適応には大いに悩まされます。
これとは違った理由で手術適応に悩まされるものに、目の下のタルミを取り除く手術があります。需要の非常に多い手術ではありますし、きれいに傷跡も目立たなくなる優れた治療法なのですが、下睫毛のすぐ下と言う非常に目立つ場所に傷跡がきますので、これはもう隠しようのない場所ですから、特に仕事をもっておられる方にはなかなか手術機会を得るのが困難になります。