院長日記

第33話 シリコン注入はなくならない?


昔(と言っても30年や40年ほど前の事ですが)、肉質注射と称した注入剤が使用された時代がありました。オルガノーゲンと言って、シリコンジェルが主だったようですが、このゲル状の物質を顔やバストやペニスなどに、充填剤として利用していたようです。
かなりピンポイントに注入しやすく、その仕上がりも早く、また、材料費も安価であった事などから、かなり拡く行われていた(今の美容外科のように、まったく一般的ではなかったので、ごく一部の世界での事でしょうが)ようです。
このシリコンジェル、長期経過とともに、周囲組織への浸潤があり、組織変性を強くおこします。そのため、注入された部分が岩のように硬くなります。注入当初は問題がなかったものの、10年20年と経って、大変な事になった方が多かったと思いますし、現にそのような方を何人も診てきました。当然、このような注入剤は禁止されました。
当時のことは、私には判りませんが、医者の質の低さであったのか、長期経過などどうでもよかったのか、それとも、その当時はこの手の注入剤は安全と考えていたのかはよく判りませんが。
先日、シワの相談で来院された50代の女性ですが、ヒアルロン酸の注入で十分きれいになるようなシワであったので、そう説明すると、「友人はヒアルロン酸を入れたけど、全然効果がなかったと。周りに、シリコンを入れた知り合いが何人かいて、皆良くなっているし、いつまでも持続するようなので、それを入れて欲しい。」と言います。
すぐに効果がなくなる例(その材料なのか、注入の仕方なのか、その量なのか、どこか間違っているのでしょうが)と、実際きれいになった例(シリコンジェルの注入で)を実際見ておられるので、その危険性やら、本来のヒアルロン酸の事やら、説明した上でちゃんと理解していただくのに、もうそれはかなり骨を折りました。
シリコンジェルに関わらず、長期経過で問題が起こってきそうなものが、幾つか現に存在していて、それを煽る医者も現にいます(医者としての資質に著しく欠けるのか、あまりに行儀が悪いのか判りませんが)。
よくよく気をつけられるべきだと思います。