院長日記

第13話 患者様と美容外科


癌を患っておられて入院中の方が、外出許可をとられて来院される事があります。進行癌であったり転移がみられる場合が多く、脂肪吸引としわ、たるみの治療を希望される方がほとんどで、そう長くはないであろう寿命を悟られているようです。まだ今ならと、できるものであればシワをなくしておきたい、お腹をすっきりしておきたい、何とかなりませんかと。
当然高齢の女性の方ばかりですが、男性の高齢者の場合は、昔に入れた入れ墨(奥様とは異なる女性の名前であったりするのですが)を消しておきたい、包茎を治しておきたいと来院される事もあります。いずれも、今後の入院生活で恥ずかしくないようにとの理由です。女性とはまったく次元の異なる、こちらは非常に微笑ましいものですが。
昨日タクシーに乗った際、運転手さんから、一番遠くまで運んだ客の話しを聞かされ、ふと以前に経験した事を思い出し、今回はこんな話しをしてみます。
私が美容外科医になる以前(もう16,7年も昔の話しですが)、努めていた病院で診ていた患者さん(80代後半だったと思います)が、奥様(同じ病院の他の病棟に入院していましたが)と一緒に外泊許可を申請されたのですが、数時間後、あるタクシー会社から連絡があり、タクシーに乗せたはいいが、宮崎まで(大阪市内から)と言われ、お二人とも重病そうでもあるし、お断りするもなかなか降りてもらえない、よく話しを伺うと、死ぬ前に何が何でも宮崎へ墓参りにいきたいとの事で、担当医の承諾が得られるかと言うものでした。
運転手の方も何とか連れていけるものならとの心情でしたし、幸いこの運転手の奥様が看護婦で、一緒に付き添うとまで言われ、病歴や投薬内容等をお渡しして3日間の外泊を承諾しました。この患者さんは、以前事業を起こされていて、病気が発覚して後、大企業に会社を売られた方で、奥様ともども身寄りのない方でした。運転手さんから聞いたお話では、お墓のあるお寺に3500万円を寄付されたとの事(どうしてこんな重い鞄を持ってこられるのかと思っていたそうですが、1万円札がぎっしりつまっていて本当に驚いたと)。
3日後、病院の玄関へお迎えにいった際の、このお二人の、なんとも言えないほっとした表情が今でも思い返されます。
重病を患っておられる方、とくに余命いくばくもないと言った方の来院は、私には非常に重たくはあるのですが、できるものであれば御期待に添えるようにと思っています。この場合、可能ではあっても、担当医との連係なくしては不可能で、美容外科手術と聞いただけで眉をひそめる医師がまだまだ多いのも事実で、仕方なくお断りせざるを得ない場合もよく経験する事ではあります。